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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)9607号 判決

原告

笹川稔

被告

株式会社テレビ朝日ミュージック

右代表者代表取締役

松林清風

右訴訟代理人弁護士

綱取孝治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年九月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  原告の主張

原告は、別紙目録一のとおり記載のある訴状及び別紙目録二ないし六のとおり記載のある準備書面を陳述した。

二  原告の主張に対する認否

別紙目録一記載の事実のうち、第一、第四、第五項の事実は知らない。その余の事実のうち、被告が歌謡曲「長良川艶歌」の著作権者であること及び日本音楽著作権協会に対し「長良川艶歌」の作品届が出されていることは認め、その余は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告の主張は明らかでないが、要するに、

原告は、昭和五六年に歌謡曲「舞子慕情」を作詞し、これに砂川昌基が作曲、神奴泰典が編曲を施した。その後原告は右神奴から編曲の著作権を譲り受けた。右「舞子慕情」の編曲には琴の音が独創的に配列されている。即ち、同曲には開始部分及び終結部分に弾き流しの琴の音が、中間部分に盛り上がるような琴の音が使用されるという形式上の特異性がある。ところで、被告は、歌謡曲「長良川艶歌」(作詞石本美由起、作曲岡千秋、編曲斉藤恒夫)の著作権者であるが、右「長良川艶歌」においても曲の開始部分及び終結部分に琴の音が使用されており、右の点において「長良川艶歌」は「舞子慕情」を編曲したものであるといえる。従つて、被告の行為は、原告が「舞子慕情」について有する著作権(著作権法第二八条所定の編曲権)を侵害しているので、原告は被告に対して損害賠償を求める。

というものと解される。

二よつて検討するに、主張によれば、本件は著作権侵害を理由とする損害賠償請求であるので、原告は被告の著作権侵害行為を具体的に主張しなければならないというべきところ、原告はこの点、被告は「長良川艶歌」の著作権者であると主張するのみで、具体的な侵害行為の主張を欠いている点主張自体失当であるので、その余の点を判断するまでもなく原告の請求は理由がないことになる。

ちなみに、「舞子慕情」と「長良川艶歌」を対比してみると、〈証拠〉によれば、両者はいずれも編曲にあたつて、曲の開始部分と終結部分に琴が使用されており、このうち開始部分の第二小節に音程が同一である部分がみられる他、二箇所に類似した部分があるが、右各部分はいずれも琴において一般に採用されている分散和音の選択ないし奏法によるものであつて、創作性を有するものとはいえないこと(右の点は原告本人尋問において原告自身も肯定しているところである。)、琴を使用したその他の部分については旋律が大きく異なつていること、琴以外の面についてみると、両者は、その旋律、リズム、和声、形式、編曲における使用楽器の編成のいずれにおいても全く相違していることが認められ、右事実に照すならば、両者は全く別個の楽曲ということができ、したがつて、「長良川艶歌」が「舞子慕情」を原曲とした二次的著作物ということはできない。

三以上のとおり、いずれの点からも、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官飯村敏明 裁判官高林龍は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官元木 伸)

目録一

訴   状

請求の原因

一 原告は昭和五六年四月一六日大平スタジオ(新宿区西新宿一丁目二〇番一号・大平住宅株式会社内)に於いて歌謡曲作品名「舞子慕情」(作詞原告、作曲砂川昌基、編曲神奴泰典)の音をテープに固定して著作権を取得し、翌五七年四月二一日、日本音楽著作権協会(港区新橋一丁目七番一三号)にその作品届を了した。

二 然るところ、被告は同人が著作権を保有している歌謡曲、作品名「長良川艶歌」(作詞石本美由起、作曲岡千秋、編曲斉藤恒夫)により原告が著作権を有する前記歌謡曲「舞子慕情」の二次的著作権を侵害した。

三 原告が著作権を有する「舞子慕情」の編曲は琴を選択し琴の音の独創的配列により構成した独創的創作性を有し二次的著作権を有する著作物であるが被告は原告と同様に琴を選択し、原告の独創的琴の音の配列を剽窃組成して原告の権利を侵害したものである。

四 原告は「舞子慕情」を世に出すため昭和五六年四月から今日に至るまで新人歌手募集と宣伝をかね同作品の曲入テープ一〇〇〇個を東京都内の新宿、渋谷、池袋、赤羽、三重県渡鹿野島方面に無料で配布し、私財を抛つて日夜東奔西走し同作品の出世を夢みて生活の苦境を忍耐してきたものである。

五 原告の該作品は同人が歌手育成とプロダクション経営を意図して心血を注いだ作品であり本件編曲剽窃の事実に気付いた原告の衝撃はまた絶大である。

六 被告が著作権を保有する「長良川艶歌」は昭和五九年三月某日、日本音楽著作権協会に作品届を了したものであつて原告の著作権を有する「舞子慕情」より後日作成されたことは明白である。

七 よつて原告は著作権法第一一四条二項により同人が有する「舞子慕情」の著作権(演奏権・録音権・放送権・出版権・レコード製作権等)の行使により通常受くべき金銭の額に相当する二、五〇〇万円を自己が受けた損害額として内金五〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払いを求める。

右の通り訴えを提起する。

目録二〜六 準備書面〈省略〉

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